東京地方裁判所 昭和59年(ワ)2036号 判決 1985年3月27日
原告
金武春
ほか一名
被告
株式会社ダック
ほか一名
主文
一 被告らは、各自、原告金武春に対し金七四万六六七二円、原告朝政に対し金七一万〇五六八円及び右各金員に対する昭和五九年三月二日から各支払済に至るまで年五分の割合の金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを三分し、その二を原告らの、その余を被告らの各負担とする。
四 この判決は、主文第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、各自、原告金武春に対し金三二七三万三九三〇円、原告金武朝政に対し金三〇三万八九八〇円、及び右各金員に対する昭和五九年三月二日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
(一) 日時 昭和五七年二月二四日午前八時四五分ころ。
(二) 場所 東京都新宿区戸塚町一―一〇四号先路上。
(三) 加害車両 普通乗用自動車(練馬四四め八五八二号)。
右運転者 被告丸山和雄(以下「被告丸山」という。)。
(四) 被害車両 普通乗用自動車(練馬五八て八四一三号)。
右運転者 原告金武朝政(以下「原告朝政」という。)。
(五) 事故態様 事故現場の交差点で、右折を開始した加害車両と対向車線を直進してきた被害車両が衝突した(以下「本件事故」という。)。
2 原告らの受傷及び治療経過
本件事故により、原告朝政は前額部打撲挫創等の傷害を負い、事故当日春山外科病院に入院して、翌日退院し、昭和五七年八月三一日まで同病院で通院(実日数一〇日)のうえ治療を受けた結果同日治癒し、また被害車両に同乗中の原告金武春(以下「原告春」という。)は前額部及び口唇部挫創、右尺骨々折、両橈骨々折等の傷害を負い、事故当日から昭和五七年三月三日までの八日間同病院に入院し、同年三月四日から同月二九日までと、同年八月七日から同月二一日までの間同病院に通院して治療を受けたが、治癒せず、同日症状が固定し、顔面に著しい醜状痕(自動車損害賠償保障法((以下「自賠法」という。))施行令二条別表後遺障害別等級表第七級該当)、左上犬歯亜脱臼、右手関節牽引痛の障害が残つた。
3 責任原因
(一) 被告丸山は加害車両を運転して事故現場交差点を右折するに際し、対向車線を直進進行してきた被害車両を認めながら、その直前で右折を開始したものであつて、同被告には民法七〇九条の規定に基づき、原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。
(二) 被告株式会社ダツク(以下「被告会社」という。)は、加害車両を所有しこれを自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条の規定に基づき、原告らに生じた損害中の人的損害について、また、被告会社は被告丸山の使用者であり、本件事故は被告丸山が被告会社の業務に従事中前記のとおりの過失により発生したものであるから、被告会社は民法七一五条一項の規定に基づき、原告らに生じた後記物的損害を賠償すべき責任がある。
4 損害
(原告春の損害)
(一) 人的損害
(1) 治療費 金五〇万円
同原告は春山外科病院における治療費として金五〇万円を要した。
(2) 付添費 金四万円
同原告は前記人院期間(八日間)及び昭和五七年三月四日から同月二九日までの実通院期間(八日間)付添を要する状態にあつたため、同原告の次女金武美津栄がこれにあたり、付添費用として合計金四万円を要した。
(3) 雑費 金八〇〇〇円
同原告は前記入院期間(八日間)中雑費として一日当たり金一〇〇〇円を要したので、その合計は金八〇〇〇円となる。
(4) 交通費 金四万六二七〇円
(5) 入れ歯代 金一二〇万円
(6) 休業損害 金四六万五〇〇〇円
同原告は大正一〇年一〇月四日生れの健康な女子で本件事故当時マンシヨン管理人として月額金一五万五〇〇〇円(一日当たり金五〇九五円)の収入を得ていたが、本件事故により、勤務先退職を余儀なくされ退職後の昭和五七年六月一日から症状固定日である昭和五七年八月二一日までの間休業を余儀なくされ、金四六万五〇〇〇円の休業損害を被つた。
(7) 逸失利益 金二〇四二万四六六〇円
同原告は、前記のとおりの後遺障害(顔面醜状痕)が残つてマンシヨン管理人の職を失ない、その後も管理人職に就くことが不可能となつたが、本件事故がなければ今後一五年間は前記職業で稼働が可能であり、その間少なくとも前記収入を得ることができた筈であるから、これを基礎として新ホフマン式計算法により年五分の割合の中間利息を控除して、同原告の症状固定時における逸失利益の現価を求めると、次の計算式のとおり、金二〇四二万四六六〇円となる。
計算式 155,000×12×10,981=20,424,660
(8) 慰藉料 金九六八万円
同原告の前記受傷内容、入通院治療期間及び右受傷により治療期間中食事等の日常生活にも支障が生じたこと、また顔面醜状のためマンシヨン住人が嫌い同原告を暴力を用いて追い出そうとする事態にも至つたこと等の事情があるから、傷害による慰藉料としては金三〇〇万円が相当であり、また同原告の後遺障害の内容・程度に照らし、後遺障害による慰藉料としては金六六八万円が相当である。
(二) 物的損害
(1) 着衣等の損傷 金三五万円
(2) ハンドバツク 金二万円
(原告朝政の損害)
(一) 人的損害
(1) 治療費 金一二万円
(2) 交通費 金七九八〇円
(3) 雑費 金一〇〇〇円
同原告は前記入院期間(一日)雑費として金一〇〇〇円を要した。
(二) 物的損害
(1) 着衣等の破損による損害 金一六万円
ただし運動靴金五六〇〇円、時計金一〇万円、その他着衣等金五万四四〇〇円の合計額。
(2) 車修理費 金一一〇万円
同原告は被害車両の所有者であり、本件事故により同車両が破損(前面部等大破)し、修理費として金一一〇万円を要した。
(3) 車両格落ち損 金五五万円
被害車両は、昭和五七年二月一二日新車で購入したものであるが、修理後も車両の価値を著しく低下させられたもので、その格落ち損としては修理費の半額である金五五万円が相当である。
(4) 代車使用料 金一〇万円
同原告は、被害車両を原告春の養子訴外金武良映(当時小学生)が身体が弱いため同人の通学の際の送迎にも利用していたところ、本件事故により被害車両の修理期間中使用不能となつたため、タクシーを利用せざるを得ず、その代金金一〇万円を負担のうえ支出した。
(5) 慰藉料 金一〇〇万円
同原告の前記受傷内容、入通院治療期間及び同原告は大学受験生であつたところ、本件事故による受傷のため事故数日後実施された入学試験を受験することができなかつたのであり、これら諸事情を考慮すると慰藉料としては金一〇〇万円が相当である。
5 結論
よつて、原告らは被告らに対し、各自、原告春は金三二七三万三九三〇円、原告朝政は金三〇三万八九八〇円及び右各金員に対する本訴状送達の日の翌日である昭和五九年三月二日から各支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実中、(一)ないし(四)の事実は認め、(五)の事実は争う。
2 同2の事実は不知。
3 同3(一)の事実中被告丸山の過失の程度、態様は争うが同被告が民法七〇九条の責任を負うことは認める。同3(二)の事実中、被告会社が民法七一五条一項及び自賠法三条の責任を負うことは認める。
4 同4の事実は不知。
三 抗弁
1 過失相殺
原告朝政は、本件事故現場の交差点を直進通過するにあたり被告車が右折の合図をしながら交差点中央付近に接近し、かつ直進の原告車との間には相当な距離があつたことを認めたのであるから事前に被告車が右折することも十分予見できたにもかかわらず、何ら減速することなく相当に速いスピードで直進した結果、すでに右折を敢行した被告車と衝突したもので、原告朝政の過失の程度も軽くなく、同原告及び同原告と生活を共同にする親子関係にある原告春につき二〇パーセントの過失相殺をするのが相当である。
2 弁済
原告春は自賠責保険から金一〇〇八万円の支払を受けており、それ以外にも被告らは、いわゆる任意保険金などにより、原告らに対し、次のとおり支払つた。
(一) 原告春分として 合計金九七万九九〇〇円
(1) 治療費 金二五万一八八〇円
(2) 休業補償 金三四万円
(3) 雑費 金四八〇〇円
(4) 交通費 金三万三二二〇円
(5) 着衣損害 金三五万円
(二) 原告朝政分として 合計金一二万〇三八〇円
(1) 治療費 金五万九七〇五円
(2) 雑費 金六七五円
(3) 着衣損害 金六万円
3 示談
原告朝政所有の被害車両の修理費、格落ち損及び代車使用料の損害については、原告朝政と被告会社(示談代行者訴外大東京火災海上株式会社)との間で、右各車両損害につき、双方の過失相殺率を原告朝政二、被告会社八の割合で加害車両の損害等も含めて差引計算し、被告会社が原告朝政に対し差額金八三万三三〇八円を支払う旨の示談が成立し、同原告の指示により訴外会社は昭和五九年七月二九日被害車両の修理を担当した訴外日産プリンス東京販売株式会社に対し右金額を支払つた。したがつて同原告の車両損害の主張は失当である。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1及び3の事実は否認する。
2 抗弁2の事実は認める。
第三証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録各記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
一 請求原因1(事故の発生)の事実中(一)ないし(四)の事実、同3(責任原因)(一)の事実中被告丸山が民法七〇九条の責任を負うこと(但し、過失の程度及び態様については争いがある。)、同3(二)の事実中被告会社が民法七一五条一項及び自賠法三条の責任を負うことは当事者間に争いがない。
二 本件事故の態様及び過失相殺の抗弁について検討する。
方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められ真正に成立したと推定される乙第一号証の四、五、八ないし一二、一五、一六、一九、二一、三一ないし三六によれば、次の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
1 本件事故現場道路は、飯田橋方面(東)から明治通り方面(西)に通じる車道幅員約一七・六メートル、中央分離帯により上下線が区分され、片側三車線のアスフアルト舗装された平坦な直線道路(以下「甲道路」という。)と早稲田通り方面(南)から目白通り方面(北)に通じる、車道幅員が後記交差点から早稲田通り方面道路は約九メートル、同目白通り方面道路は約三メートルのアスフアルト舗装された平坦な道路(以下「乙道路」という。)が交差する信号機により交通整理のされた交差点内で、市街地にあつて交通ひんぱんで、最高速度は毎時四〇キロメートルに規制されている。なお、事故当時の天候は小雨であつた。
2 原告朝政は被害車両を、原告春を助手席に同乗させて、甲道路飯田橋方面から明治通り方面に向け中央分離帯寄りの第三車線(幅員約三・一メートル)を時速約五〇キロメートルで進行し、本件交差点の手前四四メートル以上の地点で対面信号が青を表示しているのを認め直進すべくアクセルから足を離して時速約四〇キロメートル以上で進行を続けたところ、交差点の手前約三三メートル付近の地点で対向の第三車線を進行中の加害車両が交差点手前で右折の合図をしているのを認め、その後も対面信号が黄色に変つたのも認めたが、自車が先に通過可能と速断し、そのまま進行したところ、交差点に進入した直後ころ加害車両が停止することなく右折してくるのを右前方約一六・五メートル先に発見し、直ちに急ブレーキの措置をとつたが間に合わず、自車前部を加害車両左側部に衝突させた。
3 被告丸山は、加害車両を運転して甲道路第三車線を明治通り方面から飯田橋方面に進行し、本件交差点を右折するに際して、交差点手前で時速約二〇キロメートルに減速したのみで対面信号の黄色表示を見て左方の安全を確認せずそのまま交差点に進入して右折を開始したところ、交差点中央付近に至つて初めて被害車両が左前方約一五メートルに接近中であるのに気付いたが、ブレーキをかける間もなく、前記のとおり衝突した。
右事実によれば、被告丸山には本件交差点を右折するに際し対面信号が黄を表示していることに気を許し左方の安全を確認することなく、また交差点の中央付近で徐行もすることなく被害車両の直近を右折進行した過失があるが、原告朝政にも対面黄信号で交差点を直進するに際し右折の合図をしている加害車両を認めながら、減速あるいは合図等の事故発生防止の措置をとることなく漫然と進行を続けた過失があるから、事故現場の状況、事故態様等に照らし、原告ら(原告春については被害者側の範囲内にある者として)につき二〇パーセントの過失相殺をするのが相当である。
三 成立に争いがない甲第三号証の二、第四号証の一ないし三、第五号証の一、二、乙第二号証の一八ないし二一、三〇、第三号証の二〇ないし二三、三一及び弁論の全趣旨によれば請求原因2(原告らの受傷及び治療経過)の事実(なお原告春の顔面線状痕は、一一か所に放散し、うち右前額部より右眼瞼上に至る約五センチメートル、眉間部にある約二・五センチメートル、左眉前後にある約五・五センチメートル、右眼瞼下の約四・五センチメートル、左頬上の約六センチメートルの五本の線状痕は赤色を呈して盛り上つていて全体的にみて著しく人目につくものである。)が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
四 損害
(原告春)
1 治療費 金二五万一八八〇円
前記乙第二号証の一九及び乙第三号証の二一及び弁論の全趣旨によれば、原告春は春山外科病院における治療費として金二五万一八八〇円を要したことが認められる(右認定を左右するに足りる証拠はない。)が、それを超える治療費を要したことを認めるに足りる証拠はない。
2 付添費用 金三万六〇〇〇円
原告春本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告春は前記傷害の部位・程度からして両手が使えないこと等から、入院期間(八日間)及び昭和五七年三月四日から同月二九日までの実通院期間(八日間)付添を要する状態にあつたため、同原告の次女金武美津栄がこれにあたつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。右事情に鑑み付添費用としては、入院中につき一日当たり金三〇〇〇円、通院中につき一日当たり金一五〇〇円が相当である。これによれば、合計金三万六〇〇〇円となる。
3 雑費 金八〇〇〇円
原告春は前記入院期間(八日間)雑費として1日当たり少なくとも金一〇〇〇円を要したものと認められる(右認定を左右するに足りる証拠はない。)から、その合計は金八〇〇〇円となる。
4 通院交通費 金四万四五七〇円
成立に争いがない甲第一〇号証、原告春本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告春は昭和五七年二月二四日から同年三月二九日までの間、前記春山外科病院に通院(八回)するためタクシーを利用し(前記傷害の部位・程度に照らし相当と認める。)、その費用として合計金三万九一七〇円を要したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
また原告春本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば原告春は昭和五七年八月七日から同年八月二一日までの間転居先の横浜市内から右春山外科病院に通院するに際しバス及び電車を利用し、往復に一回当たり金九〇〇円を要したこと、右期間の実通院日数は六日(全通院日数一四日からタクシーを利用した八回を控除したもの。)であることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
以上によれば、原告春の通院交通費合計は金四万四五七〇円となる。
5 入れ歯代 金一二〇万円
成立に争いのない甲第五号証の一、二によれば、原告春は事故により上下歯(義歯)が破折したため福田歯科医院でプラチナ金属床装着の処置を受け、その費用として少なくとも金一二〇万円を要したことが認められる(右認定を左右するに足りる証拠はない。)。
6 休業損害 金四一万七七九〇円
成立に争いがない甲第一号証、原告春本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第一二号証、及び同原告本人尋問の結果によれば、原告春は大正一〇年一〇月四日生れ(事故及び症状固定時六〇歳)の女子で、本件事故当時アーバンライフ株式会社にマンシヨン管理人として勤務し、赤坂桧町公園アーバンライフ管理人室に居住して右業務に従事し月額金一五万五〇〇〇円(一日当たり金五〇九五円)を下らない所得を得ていた(乙第三号証の二八は前記証拠に照らし直ちに措信できない。)が本件事故の受傷に対する長期の療養及び顔面線状痕を主とする受傷内容に対しマンシヨン住民が不快の念を示したことにより昭和五七年五月三〇日退職を余儀なくされ、翌六月一日から疾状が固定した同年八月二一日までの八二日間就労不可能の状態にあつたことが認められる(右認定を左右するに足りる証拠はない。)から、原告の休業損害額は金四一万七七九〇円となる。なお、原告春本人尋問の結果によれば、同原告は本件事故後退職日までは自ら管理人としての職務を十分果せる状態にはなかつたもののその職責上休業できず次女金武美津栄の協力を得て就労し、そのためその間の給与は得ており、休業損害として請求していないことが認められ(右認定を左右するに足りる証拠はない。)、右事情は同原告の慰藉料額算定の際斟酌することとする。
7 逸失利益 金三八六万二四七六円
原告春本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告春は前記アーバンライフ株式会社を退職し症状が固定した後においてマンシヨン等の管理人職を求めたが前記後遺障害(原告春は顔面の線状痕を隠すため、いわゆるサングラスを常用している。)の影響があつて適当な稼働先を得ることができず、他に特段の資格等技術を有するものでもないため現在においても失業中であることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。ところで、同原告は高齢者(症状固定時六〇歳)で、その後遺障害の内容も主に顔面線状痕でありそれ自体機能障害を伴うものではないけれども、前認定の退職時の事情及び現在においても右障害のため職を得ることができないこと、その他同原告の経歴、職種等に照らし、同原告は前記後遺障害により症状固定時から昭和五七年簡易生命表の平均余命の範囲内である一一年間は稼働可能で、その間平均して労働能力の二五パーセントを喪失したものと認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。そこで、前記所得額を基礎にライプニツツ式計算法により原告春の逸失利益の症状固定時における現価を算定すると、次の計算式のとおり金三八六万二四七六円(一円未満切り捨て)となる。
計算式 155,000×12×0.25×8.3064=3,862,476
8 慰藉料 金八五〇万円
原告春の前記受傷の内容・程度、入通院治療期間、後遺障害の内容・程度その他諸般の事情によれば、同原告の被つた精神的苦痛に対する慰藉料としては、傷害分及び後遺障害分を合わせ金八五〇万円が相当と認める。
9 着衣等の損害 金三七万円
成立に争いのない甲第二号証、原告春本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件事故により原告春のパンタロンスーツ、コート、マフラー、靴、サングラス及びハンドバツグが損傷し、その損害額は合計で金三七万円を下るものではないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
10 過失相殺
前記1ないし8の人的損害額合計金一四三二万〇七一六円から二〇パーセントの過失相殺をすると残額は金一一四五万六五七二円(一円未満切り捨て)となり、9の物的損害額金三七万円から同割合の過失相殺をすると残額は金二九万六〇〇〇円となる。
11 損害のてん補
原告春が人的損害のてん補として自賠責保険から金一〇〇八万円の支払を受けたこと及び右以外に被告らから金六二万九九〇〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがなく、また着衣損傷等の物的損害のてん補として被告らから金三五万円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。
12 前記10の損害額から11のてん補額を控除すると、人的損害の残額は金七四万六六七二円となり、物的損害については全ててん補されていることとなる。
(原告朝政)
1 治療費 金五万九七〇五円
成立に争いがない甲第八号証及び弁論の全趣旨によれば、原告朝政は前記春山外科病院での治療費として少なくとも金五万九七〇五円を要したことが認められる(右認定を左右するに足りる証拠はない。)が、それ以上に原告主張の金額を要したことを認めるに足りる証拠はない。
2 交通費 金七九八〇円
弁論の全趣旨によれば、原告朝政は前記春山外科病院への通院交通費(昭和五七年二月二五日以降分)として合計金七九八〇円を要したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
3 雑費 金一〇〇〇円
原告朝政が昭和五七年二月二四日の一日前記春山外科病院に入院したことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によればその際雑費として金一〇〇〇円を要したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
4 慰謝料 金五〇万円
原告朝政の前記受傷の内容・程度、通院治療期間その他諸般の事情によれば、同原告の被つた精神的苦痛に対する慰謝料としては、金五〇万円が相当と認める。
5 着衣等の損害 金六万円
前記甲第二号証及び弁論の全趣旨によれば、本件事故により原告朝政の半コート、セーター、ジーパン、運動靴、時計が損傷し、その損害額は合計で金六万円を下るものでないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
6 車両損害
(一) 車修理費
原本の存在及び成立に争いのない甲第一六号証、証人大谷英文の証言により真正に成立したと認められる乙第四号証の三及び弁論の全趣旨によれば、原告朝政は被害車両の所有者であるところ、本件事故により同車が破損し、その修理費用として金一一〇万円を要したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(二) 車両格落ち損
前記乙第四号証の三、証人大谷英文の証言及び弁論の全趣旨によれば、被害車両は購入後間もない(約二週間)新車で、アジヤスターによる調査報告では初度登録は昭和五七年二月、累積走行キロ数が約三〇四キロメートル、車両整備状況は「やや良」で事故直前の車両時価は金二〇〇万円と評価されたこと、本件事故により同車は前部を大破し、日産プリンス東京販売株式会社によりアシストシート、ヒータープロアモーター、サスペンシヨンメンバー、パワーステアリングポンプ等の高額部品(合計金八二万三四六〇円相当)を交換のうえ前記のとおり修理がなされたことが認められる(右認定を左右するに足りる証拠はない。)ところ、右被害車両の購入時期、本件交通事故前の事故日当時におけるその財産的価値、破損の程度、修理代等の事実に照らし、評価落ちがあり、その程度は少なくとも金三三万円(修理代の三割)を下るものではないと推認することができる。
(三) 代車使用料
弁論の全趣旨によれば、原告朝政は訴外金武良映の通学の際その送迎に被害車両を利用しており、被害車両の修理期間中はこれに代えてタクシーを利用し、同原告においてその代金一〇万円を負担のうえ支出したことが認められ(右認定を左右するに足りる証拠はない。)、右のタクシー使用料も事故と相当因果関係があるが、反面被害車両の経費等の支出を免れているからこの点を考慮のうえ、右代金の八割に相当する金八万円をもつて事故と相当性のある代車使用料と認める。
(四) 被告の示談の抗弁について
(1) 前記甲第一六号証、乙第四号証の三、証人大谷英文の証言により真正に成立したと認められる乙第四号証の一、二、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第五号証の一ないし四、第六号証の一、二、第七号証及び証人大谷英文、同金武美津栄の各証言によれば、原告朝政及びこれに代つて交渉に当たつた原告春ないし訴外金武美津栄と被告会社の加入対物保険会社である大東京火災海上保険株式会社社員で被告会社の示談を代行した大谷英文らとの間で、昭和五七年七月二六日ころ、過失相殺を考慮し、被告会社の損害を差引清算したうえ、被害車両の修理代金として金八三万三三〇八円を被告会社(現実には前記保険会社)が支払うこととし、これを被害車両の修理会社である前記日産プリンス東京販売株式会社に直接送金する旨の示談が成立し、実際にこれが支払われたことが認められ、前記証拠中右認定に反する部分は叙上認定に供した他の証拠に照らし直ちに措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(2) 右事実によれば、本件においては右修理代金損害については既に示談によつて解決していることになるから、この点の原告の主張は失当である。ところで、被告は、右修理代金のほか車両格落ち損及び代車使用料も右示談内容に含まれていると主張するので検討するに、前記乙第四号証の二には、「本件交通事故による物件損害について賠償金八三万三三〇八円以外は一切の請求をしない」旨の記載部分があるけれども、前記証人大谷英文、同金武美津栄は、右交渉の過程においては原告側の物件損害として被害車両の修理代のみが争いの目的となつており、車両格落ち損及び代車使用料については全く考慮外であつたと証言していることに照らすと、前記記載部分のあることのみをもつて直ちに被告主張の事実を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(五) そうすると、車両損害は前記(二)及び(三)を合計した金四一万円となる。
7 過失相殺
前記1ないし4の人的損害額合計金五六万八六八五円から二〇パーセントの過失相殺をすると残額は金四五万四九四八円となり、5及び6の物的損害の合計額金四七万円から同割合の過失相殺をすると残額は金三七万六〇〇〇円となる。
8 損害のてん補
原告朝政が被告らから人的損害のてん補として金六万〇三八〇円、着衣損傷等の物的損害のてん補として金六万円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。
9 前記7の損害額から8のてん補額を控除すると、人的損害が金三九万四五六八円、物的損害が金三一万六〇〇〇円の合計金七一万〇五六八円となる。
五 以上の次第で、原告らの被告らに対する本訴請求は、原告春は各自金七四万六六七二円、原告朝政は金七一万〇五六八円及び右各金員に対する本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五九年三月二日から各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 松本久)